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ソノシートの奇跡

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〔中坪健さんのドーナツ盤〕

むかし、ソノシートというレコードが在った。いまの書類を挟むクリアファイルくらいな厚さで軟らかい。色は白や赤などがあり、片面だけに音源が入っている。ご近所に住む方がそれを持ってきて、CDにしてほしいという依頼だった。珍しく色は黒でしかもあの薄さなのにABの両面に録音されたものだった。音楽雑誌かなにかに付録で付いてきたであろう、ブルースギターの短いフレーズの練習用のものだった。個人使用なので問題なく、CDにすることを承った。出来上がり、渡したあとでアタシは気が付かなかったが、針飛びがあったと本人が再来館された。原因はすぐに分かった。プレィヤーのターンテーブルにはレコードが滑らない様にと120度角に3つの2mm高ほどの突起がついている。それが回転すると、薄いソノシートはまともに影響をうけ波を打って廻っていたのだ。
対策は棟梁に相談し、普通のドーナツ盤を下に敷いたら突起の影響を受けないのではということになった。ドーナツ盤は真ん中に丸いアダプター無して置けるものがいいとも云った。もちろん歌手や曲は問わず何でもいいとした。棟梁の行動は速かった。翌日お誂え向きのドーナツ盤を探して持ってきてくれた。たまたま選んで持ってきてくれた盤をみると、あまりの偶然にアタシは驚いた。
〔中坪健〕さんのドーナツ盤だったのだ。中坪さんは「旭川ブルース」という歌のヒットで知られる方だ。もうほぼ30年前の記憶に飛ぶ。
当時、道内の主だった歌手の本人出演カラオケビデオを盛んに撮った。「旭川ブルース」に関してはアタシがデレカメ(演出と撮影の意)をすることになった。6名のスタッフが冬の旭川へ行った。雪の降る中、旭橋のたもとや室内のシーンを2日で撮った。曲の良さと歌の上手さとでなかなかいい編集上がりになり、中坪さんにも喜んでいただけた。
その何年か後、中坪さんは札幌ススキノに歌謡スナックを出店することになった。内装やお酒の仕入れなどの開店準備は滞りなく進み、さて明日が開店日という段階になった。ところがである。当のご本人が開店前日、急逝されたのだ。なんということだろう。突然の病死だった。新聞に小さな囲み記事だ出たと記憶する。こんな理不尽さがあるだろうか・・・
よりによって棟梁が持ってきてくれたドーナツ盤レコードは、その中坪さんの別な曲のものだった。「旭川ブルース」ではなかったが、にしてもご近所のあの人がソノシートを持ってきてくれたことによる、これが小さな奇跡でなくてなんであろう。
もうカラオケに自分で行くことも歌うことも撮ることもない。だがもし機会がありアタシが撮った東映カラオケ「旭川ブルース」があれば、今でも歌えるだろう。いい歌なのだ。中坪 健さん、久し振りに思い出し、そして忘れていません。
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BIN山本

Author:BIN山本
私は、「登別映像機材博物館」の館主です。
「登別映像機材博物館」は私たちが今まで現場で使用してきたビデオ放送機材やフィルム機材を俯瞰し、その変遷の躯体をもって動態保存展示するものです。映像ソフトが時代の文化だとするなら、それを生み出したハード機器(撮影機材や再生機材、編集機材、音声機材)もまた文化遺産だと考えています。
 映像機器メーカーでも放送局でもなし得ない、町場のプロダクションが最近まで使用してきたVTRやビデオカメラをはじめ、フィルム機材を含めた放送機材の変遷史ともいうべき動態機材展示です。そのつもりで仲間のプロダクションなどの協力も得て、少しずつ集めておりました。入場無料、日本で唯一の『映像機材総合博物館』です。
 多目的ステージもあります。是非一度お立ちよりください。

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